「エンハンストゲームズ」とは何か。ドーピング容認大会とその問題点について
- 弁護士 田上博也
- 4 日前
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■大会の概要
令和8年5月24日、米国ネバダ州ラスベガスにおいて、第1回「エンハンストゲー
ムズ(Enhanced Games)」が開催されました。
同大会は、オーストラリアの実業家であるアーロン・デスーザ氏が提唱した国際競技
大会であり、最大の特徴は、「スポーツと科学の融合」「人体能力の解放」を掲げ、従
来のスポーツ界で禁止されてきたドーピングを全面的に容認している点にあります。
競技種目は、陸上競技、競泳、重量挙げなどに限定されているものの、アナボリック
ステロイド、ヒト成長ホルモン、テストステロン、ペプチドホルモンなど、通常であれ
ば厳格に禁止される薬物の使用が認められています。
また、高額賞金制度や著名投資家の支援も相まって、大きな注目を集めました。
■問題点
しかしながら、この大会に対しては、アスリートの健康やスポーツの公正性、さらに
は社会への悪影響を懸念する声が数多く上がっています。
第一の問題:アスリートへの健康被害
世界アンチドーピング機関(WADA)、米国アンチドーピング機関
(USADA)は「選手の健康と命を危険に晒す」としてこの大会を厳しく非難して
います。アナボリックステロイドや成長ホルモンの長期にわたる大量使用は、心臓肥
大、肝機能障害、腎不全をはじめとする重篤な臓器障害を引き起こし、命に関わる可
能性もあります。
第二の問題:公認記録の否定と信頼性の欠如
世界陸上連盟と世界水泳連盟はいずれも、本大会で樹立された記録を一切公認しな
い方針を明確にしています。また、世界陸上連盟は、参加した選手や関係者を資格停
止とすることも通告しています。
競泳競技では、従来の世界記録を上回るタイムも報じられましたが、ドーピングの
使用だけでなく、本来禁止されている「高速水着」を着用しており、通常の競技とは
全く異なる条件下での記録でした。
そもそも、薬物使用を認めた条件下での記録は、スポーツが長年守り続けてきた「
公正さ」と相容れないものです。薬物で身体を限界以上に追い込んだ者が有利になる
という構造上、そこで生まれた記録に本来の信頼性は宿らないでしょう。
第三の問題:青少年への模倣リスクと社会的影響
さらに看過できないのが、青少年への影響です。
トップアスリートは、単なる競技者ではなく、社会的ロールモデルとして機能して
います。そのため、彼らが薬物使用を正当化する姿勢を公然と示すことは、「勝つた
めなら身体を犠牲にしてもよい」という価値観を社会に広げる危険を伴います。
世界アンチ・ドーピング機構も、若年層への悪影響について強い懸念を表明してい
ます。立教大学の早川吉尚教授も、「薬物解禁はスポーツを「人間の挑戦」ではなく「
怪物の見世物小屋」へ変質させる危険がある」と警鐘を鳴らしています。
実際、過去には自転車競技などで大規模ドーピング問題が発覚した結果、競技自体
の社会的信頼が失墜し、人気低下を招いた事例もありました。
■コメント
エンハンストゲームズは、「自由」「進化」などの魅力的な言葉で語られています。
しかし、その実態は、選手に健康リスクを負わせながら、高額賞金によって参加を促す
極めて危ういビジネスモデルとも評価できます。科学技術の発展自体を否定するべきで
はありませんが、スポーツは、より危険な健康リスクを取った者が勝つ、というもので
はないはずです。
今後は、選手の自己決定権や健康問題、若年層への影響など、多角的な議論が求めら
れることになるでしょう。
執筆者:田上博也
日本プロ野球選手会公認代理人(2025年~)
東京弁護士会弁護士業務改革委員会委員(スポーツ法検討PT所属(2026年~))
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