スポーツ仲裁パネルが、少年野球の監督、コーチに対する「24か月間の軟式野球活動停止処分」を取り消した理由
- 弁護士 田上博也
- 4 日前
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更新日:4 日前
■事案の概要
申立人ら:少年野球チームの監督及びコーチ
被申立人:一般社団法人愛媛県軟式野球連盟
本件は、少年野球チーム内で発生した監督、コーチによる指導行為(以下「本件行為
」といいます。)が問題となり、監督及びコーチに対して、被申立人から24か月の活
動停止処分が科された事案です。
これに対し、日本スポーツ仲裁機構が構成するスポーツ仲裁パネルは、令和8年5月
18日、「処分手続に重大な問題があった」として、処分の取消しを命じました。
■仲裁パネルの判断
1 本件行為当時に処分規定が存在しなかったことのみでは、直ちに処分が違法とはな
らないこと
まず、申立人らは、処分の根拠とされた規約が、処分当日の令和7年6月28日に
新設されたものであり、行為後に制定された規定によって処分するのは遡及的な処罰
に当たり許されないと主張しました。
これに対し、仲裁パネルは、
①競技団体は、一定範囲でその構成員の活動資格等を制限する裁量を有しており、そ
の裁量の範囲内で懲戒処分を行う権限を有していること
②競技団体の規模や人的・財政的な資源には団体ごとの差異があるところ、厳格な懲
戒制度整備を一律に求めることは相当でないこと
などを理由として、「行為時に明文の懲戒規定が存在しなかった」という事情のみ
で、直ちに処分が違法、無効になるわけではないと判断しました。
2 処分に至る手続きに問題があったこと
一方で、仲裁パネルは、24か月の活動停止という重大な不利益処分を行う以上、
①処分の対象となる行為や事実及び処分理由の告知を行うこと
②十分な弁明の機会を与えること
が必要であると明示しました。
そのうえで、本件については、
①保護者らの「嘆願書」が申立人らに開示されていなかった
②どの行為が問題視されたのか曖昧であった
③ヒアリングについても抽象的な質問を口頭でしかされなかった
④申立人らに証拠提出の機会が与えられなかった
⑤申立人らの反論を途中で打ち切った
⑥申立人らに「弁明の機会がある」と通知したのが処分の効力発生日であった
などの事情を認定しました。
そして、これらの経過から、申立人らには実質的な防御権が保障されていなかった
として、処分を取り消す判断を下しました。
■コメント
本件の仲裁判断は、「問題のある指導者が守られた」というものではありません。
仲裁パネルも、指導者が子どもに過度な負担を与えたり、威圧的な指導を行ったりす
ることは許されないこと、被申立人が初めての懲戒案件に迅速に対応しようとした姿勢
は評価に値することを述べています。
今回取り消されたのは、処分の内容が不適切だったからではなく、「処分に至る手続
」が適正でなかったためです。
懲戒処分を行う際には、「何を問題視されているのかを明確にし、反論の機会を与え
ること」は基本原則であり、これはスポーツ団体による処分においても例外ではありま
せん。
本件は、スポーツ団体による懲戒処分においても手続の適切性が強く求められること
を示した事例といえます。
執筆者:田上博也
日本プロ野球選手会公認代理人(2025年~)
東京弁護士会弁護士業務改革委員会委員(スポーツ法検討PT所属(2026年~))
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